「闘病記」というとちょっと大げさかもしれませんが、私は過去に2度、長期間に渡り、声が出なくなる症状に悩まされたことがあります。

この病気は認知度が低いため、病院でも正しい診断を受けられないケースもあります。
治療できる病院も少なく、保険も適用されません。
外見に現れることもなく、命にかかわる症状ではないためか、世間的にはあまり重く受け止めてもらえない傾向がありますが、本人にとっては想像以上に辛い症状です・・
ですので、この病気を多くの人に知ってもらうためにも、声が出ない症状に苦しんでいた当時の精神的葛藤や、こんなところが辛かった・・という具体的な事例などについて、掘り下げて語ってみようと思います。
詳細はこちらの記事に書いてありますが、私は過去に2度、長期間に渡り、声が出なくなる症状に悩まされたことがあります。
運良く2回とも自力で乗り越えることができましたが、その当時は、自分の症状に病名がついていることなどまったく知りませんでした。
その病名とは、発声時頸部ジストニアと痙攣性発声障害(SD)です。
最初の症状が現れた時に耳鼻咽喉科に行きましたが、原因は不明と言われました。(これらの症状は、なかなか特定が難しい病気のようです)
2度目の時は、既に整体師としての仕事をしていましたから、基本的に「病気は自分で治すもの」というスタンスが当たり前になっており、病院に行くという発想そのものがありませんでした。
ですから、病院で直接診断された訳ではありませんが、症状が酷似していることは間違いありません。
この2つの病名を知ったのは、人気有名歌手コブクロの小渕さんが、発声時頸部ジストニアによって活動を休止することになった。
というニュースを観たことがキッカケです。(2011年8月辺り)
その番組では、発声時頸部ジストニアの他に、ジストニアの一種であるけいれん性発声障害(SD)で苦しんでいる方々の姿が放送されていました。
その映像を目の当たりにした時、急に呼吸が苦しくなり嫌な記憶が蘇りました・・
なぜなら、そこに映し出された方々は、「昔の私そのもの」だったからです。
すぐに、2つの病気について詳しく調べたところ、私が過去に体験した症状とあまりにも酷似していたこと、また、自分がかなり厄介な病気を知らず知らずのうちに2回も乗り越えていたことに驚かされました。
1度目の症状(発声時頸部ジストニア)について
ここからは、私が体験した具体的な症状と、それに伴い感じた気持ちについて書いていきたいと思います。
歌うことが好きだった私は、大学に通いながらバンド活動をしプロになりたいという夢を持っていました。
当時、多い時は月に4回のライブを行い、精力的にバンド活動をしていました。
正にこれからという時期に、突然あるキー以上の高音域がまったく出なくなりました。
高いキーで歌おうとすると、のどの辺りの筋肉がこわばるような感覚があり、声にならないのです。
そんな自分をどうしても受け入れられなかった私は、かなり無理のある練習をヒステリックに繰り返していました。
しかし、その練習はまったく効果が出ず、今度はのどに負担をかけないように、いかに声を出さないかということに執着しました。
この頃は、「とにかく早く治したい」と神経質になるあまり、必要の無いことはほとんど話さなくなり、周囲とのコミュニケーションも雑になっていたと思います。
そんなある日、普通の話声さえもまともに出せなくなっている自分に気づきました。
(高音域が出なくなり始めた頃は、話声については問題なく出ていたのです。)
早く治したい一心で、神経質なまでに声を出さないようにしていたというのに、(今思えば、そのストレスが症状を悪化させたのでしょう)気付けば普通に出ていた会話の時の声までおかしくなってしまったのです。
本当に訳が分からなくなりました。
具体的には、極端に声が小さくなり、ヒソヒソ声のような話し方になってしまいました。
それから、元の話し方に戻るまでに約1年半、ある程度歌えるようになるまでは約2年ほどかかったと思います。
存在証明が無くなるということ
突然ですが、あなたは自分の存在証明になるような「何か」を持っていますか?
「自分に自信を持てる何か」と言い換えてもいいかもしれません。
それは、人によってさまざまですが、容姿、頭の回転の速さ、お金、仕事の肩書きや能力、車や服、アクセサリー、スポーツや音楽、芸術、ゲームの技術、ネット上での影響力、映画や小説の知識かもしれません。
あなたにも、この分野なら多少自信があるという、何かしら存在証明になるものがあるのではないでしょうか。
私にとってそれに当たるものが「歌」でした。
ジストニアという病気の中には、職業性ジストニアと呼ばれるものがあります。
これは、専門職、音楽家、スポーツ選手に現れやすい病気で、ゴルファーの手や腕の筋肉が意図せず収縮し、パッティングがほとんどできなくなるイップス。
ピアニストやバイオリニストなどの音楽家にみられる症状で、楽器を演奏する時だけ指が曲がって伸びなくなったり、突っ張ってしまう音楽家クランプ、器楽演奏家クランプなどがあります。
それぞれ症状の表れ方は違いますが、「存在証明を失ってしまう」
という点で、これらの病気に悩んでいる方々の気持ちは、私にも多少は分かります。
あらゆる存在証明は、「それに関わっている時は、自分に自信が持てる」または、「それに関わっている時に一番生き甲斐を感じる」などのポジティブな心理状態を作り、私たちのエネルギーの源となってくれるものです。
それは、そのようなタイプの人たちが、一般的に活き活きとしていて、自信に満ち溢れていることを見ても分かるでしょう。
それだけ存在証明から得られるエネルギーは大きいのです。
そのため、自然とそれを失った時の代償も大きくなります。
大抵の人間は強い喪失感を感じ、自己否定や自己嫌悪に陥り、自信を失ってしまうでしょう。
私自身も当時、何を目的に生きていけばいいのか分からなくなってしまいました。
さまざまなことに自信を持てなくなり、軽いうつ状態にもなりました。
街で流れてくるBGMや、音楽番組、バンド関係の知り合いからの誘いから逃げるようになりました。
音楽に関係する全てのものが嫌だったのです。
当時、コンビニエンスストアでバイトをしていたのですが、接客時、声をうまく出すことができないので、バイト直前に動悸がするほど出勤するのが苦痛でした。
ストレスで髪も抜けました。
素人同然の私でも、非常に苦しい体験でしたから、コブクロの小渕さんや、さまざまな分野でプロとして活躍しているような方々(職業性ジストニア)であれば、そのストレスは想像を超えるものだと思います。
もしかすると、私たちが個人的に感じている存在意義、存在証明、生きる目的といったものは、ある意味ではただの思い込みや妄想なのかもしれません。
しかし、それらを持つことによって得られるエネルギーは現実のものであり、また、それらが奪われた時に失うエネルギーも現実のものです。
当事者にとっては、相当の苦痛を伴うものなのです。
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